制度の概要

2026 年 1 月 22 日、サウジアラビアで「非サウジ人による不動産所有法(Law of Real Estate Ownership by Non-Saudis)」が施行された。2025 年 7 月に閣議承認・勅令 M/14 号として公布された法律で、官報掲載から 180 日の移行期間を経て発効した。不動産総局(REGA)が 1 月 22 日に施行開始を公式発表し、同日から外国人による不動産取得の申請受付が始まったと報じられている。

従来、サウジアラビアでは外国人の不動産所有に厳しい制限があり、外資系企業が事業用途に限定して不動産を取得するか、上場企業・ファンドを通じた間接的な保有に限られていた。今回の新法は、この旧法を全面的に置き換えるものであり、外国人の個人・法人による直接的な不動産所有に門戸を開く制度変更である。

主要ポイント

対象者の拡大

新法では「非サウジ人」を広く定義しているとされる。サウジ国籍を持たない個人(居住者・非居住者の双方)、外国法人、外国人株主を持つサウジ法人、非営利団体、外交使節団などが対象に含まれる。従来の投資ライセンス要件を経ずに、日本国籍の個人や日系企業も所定の条件を満たすことで不動産取得が可能になると報じられている。

地理ゾーンに基づくゾーニング制度

新法の核心は、閣議決定で指定される「地理ゾーン(Geographical Zones)」内での所有を許可する仕組みである。REGA の提案に基づき、経済開発評議会の承認を経て閣議で決定される。ゾーンごとに、外国人が取得できる不動産の種類、所有割合の上限、用益権の最長期間、取得条件などが個別に定められる。

REGA は約 170 の地理ゾーンを設定する準備を進めていると報じられている。リヤド、ジッダをはじめ、王国内の各都市・県を網羅する計画とされる。

居住者向けの特例

サウジアラビアに合法的に居住する外国人(イカーマ保有者)は、指定ゾーン外であっても自己居住用として住宅 1 戸を所有することが認められると報じられている。ただし、メッカおよびメディナはこの特例の対象外であり、両聖都での所有にはイスラム教徒であることが要件となる。

メッカ・メディナにおける特別規制

両聖都では、外国人個人の所有はイスラム教徒に限定される。外国人株主を持つサウジ法人や、上場企業・投資ファンドについても、所定の条件のもとで限定的に取得が認められるとされるが、厳格な規制管理下に置かれると報じられている。

法人向けの取得枠組み

外国人株主を持つサウジ法人(非上場)は、新法上「非サウジ人」として扱われないため、地理ゾーン内外で比較的広い範囲での不動産取得が可能になると報じられている。事業用・従業員住居用途であれば、ゾーン外での取得も認められる場合がある。上場企業、投資ファンド、特別目的会社(SPV)については、資本市場法および施行細則に基づき取得が可能とされている。

不動産登記の義務化

外国人による不動産取得は、国家不動産登記簿(Real Estate Registry)への登録が法的効力発生の要件とされている。未登録の取引は法的に無効となる。

取引コスト

非サウジ人による不動産の処分には、REGA が徴収する所有手数料が課される。施行規則が定める適用料率は 2% であり、対象はリヤド・マッカ・マディーナ・ジェッダの 4 都市内に所在する物件に限られる。法律上の上限は処分価額の 5% とされており、規則により将来引き上げられる可能性がある。これは RETT(5%)および VAT とは別個の負担であり、4 都市内の取引では RETT と合算して 7% 相当となる。4 都市外の物件の処分には 0% が適用されるほか、相続、公用収用、確定判決による処分など、0% が適用される類型が定められている。取得検討時には RETT 5% と併せて試算する必要がある。

罰則規定

新法または施行細則への違反には、警告または物件価額の最大 5%(上限 SAR 1,000 万相当)の罰金が科される可能性がある。虚偽情報に基づく取得が判明した場合は、罰金に加え強制売却が命じられることがあると報じられている。

日本の投資家にとっての実務論点

直接所有の道

従来、日本人がサウジアラビアの不動産に投資するには、現地法人を設立して投資ライセンスを取得するか、上場 REIT・ファンドを経由する間接的な手段が中心であった。新法の施行により、個人名義での直接所有という選択肢が加わる。ただし、指定された地理ゾーン内に限定されるため、ゾーン文書の公表内容の確認が不可欠である。

申請手続き

REGA は外国人向けの一元的なデジタルポータル「Saudi Properties」を開設したと発表している。申請の流れは申請者の区分によって異なる。

  • サウジ居住外国人:滞在許可証(イカーマ)を用いてポータルから直接電子申請
  • サウジ非居住外国人:海外のサウジ大使館・領事館を通じてデジタル ID を取得したうえで申請
  • 拠点なしの外国法人:事前に投資省(MISA)の「Invest Saudi」プラットフォームに登録し、統一番号(700 番号)を取得のうえ申請

コスト構造の整理

項目 料率・条件 備考
不動産取引税(RETT) 物件価額の 5% 既存の税制。売買時に課税
REGA 所有手数料 2%(法律上の上限 5%) 4 都市内での非サウジ人による処分に課される
違反時の罰金 物件価額の最大 5%(上限 SAR 1,000 万) 法令違反時に科される行政罰

数値は各種公表資料に基づく整理であり、個別の適用は個別事案により異なる。

サウジ側の課税と日本側の課税

サウジアラビアでは、個人による賃貸所得への所得税課税は行われていないと報じられている。ただし、日本の居住者・法人は全世界所得課税の対象となるため、サウジで発生する賃料収入・売却益についても日本国内で申告・課税の対象になる。日サ租税条約の適用範囲、外国税額控除の可否については、必ず税理士等の有資格専門家に確認されたい。

法人形態別(外国法人、外国人株主を持つサウジ法人、SPV 経由等)で税務・法務上の取扱いは大きく異なる。M&A や不動産取得のスキーム設計においては、法的区分の意味が実務上大きい。

今後の留意点

地理ゾーン文書の公表時期

REGA は、約 170 の地理ゾーンを定める「地理ゾーン文書(Geographic Zones Document)」を 2026 年第 1 四半期中に公表すると発表している。文書には、外国人が不動産を取得可能なゾーンの地図、取得可能な権利の種類、所有割合の上限、用益権の期間制限、規制条件などが記載される予定である。文書公表までは、具体的にどの地区で外国人所有が認められるかが確定しないため、投資判断においてはゾーン文書の内容確認を最優先されたい。

施行細則

新法は、施行から 180 日以内(2026 年 7 月頃まで)に施行細則を策定・公表すると定めている。施行細則では、物権取得の具体的手続き、非居住外国人の要件詳細、移転手数料の算定方法、免除条件などが規定される予定である。施行細則が出揃うまでは、制度の全体像が確定しない部分が残る。契約実務においては、規制変更リスクの配分を慎重に設計することが推奨される。

既存スキームの見直し

従来、ノミニー契約や間接的なファンド経由でサウジ不動産へのエクスポージャーを持っていた投資家は、新法の枠組みに合わせたスキーム再構築を検討する必要があるとされる。新法のもとでは、登記が効力要件とされるため、未登記の所有スキームは法的リスクを伴う。

デューデリジェンス

外国人投資家がサウジ不動産に投資する際は、以下の事項について十分なデューデリジェンスが求められる。

  • 対象物件が指定地理ゾーン内に所在するか
  • 取得を予定する権利類型がゾーン条件で許可されているか
  • 所有割合や期間の上限への適合性
  • 売主の権利の有効性と登記状況
  • 関連する税務・手数料の正確な算定
  • 日本側の税務・為替規制への対応

市場環境の参考情報

サウジアラビアの不動産市場は、Vision 2030 の推進を背景に成長基調にあると各種報道で伝えられている。市場規模の推計、主要都市の価格推移、地域本社設置数などの具体データについては、SAMA、GASTAT、および主要調査機関の Saudi Arabia レポートに依拠する。方法論・時点・対象範囲が明示された一次資料での確認を推奨する。一方で、家賃凍結令や遊休地税(White Land Tax)の引き上げなど、市場の過熱を抑制する政策も並行して実施されていると報じられている。これらの情報は参考であり、将来の市場動向を保証するものではない。

まとめ

2026 年 1 月 22 日施行の非サウジ人による不動産所有法は、外国人の直接所有に門戸を開く制度変更として発表されている。実務での適用は、地理ゾーン文書と施行細則の公表を経て確定する。日本の投資家が参加を検討する際は、サウジ側の制度と日本側の課税の双方について、専門家の確認を前提とすることが求められる。