2026 年 1 月 22 日、サウジアラビアでは外国人・外国法人による不動産購入が解禁された。これに伴い、購入・保有・売却の各段階における課税関係を、サウジ側と日本側の双方で理解する必要が生じている。

本記事は、公表資料に基づく一般的な整理である。個別の課税判定は事案により異なるため、税理士等の有資格専門家への相談を前提とされたい。日本の居住者・法人は全世界所得課税の対象となるため、サウジで発生する所得についても日本国内で課税されうる点を、常に確認する必要がある。

全体像

サウジアラビアの不動産税制は、個人・法人・国籍別で扱いが異なる。以下は公表情報に基づく概観である。

サウジ側の主な税目

税目 標準税率 対象
不動産取引税(RETT) 5% 不動産売買(住宅用中心)
VAT(付加価値税) 15% 商業用不動産売買・賃貸
法人所得税 20% 非 GCC 資本の事業体(外国法人・支店)
Zakat 2.5% GCC 国民が所有する事業体
REGA 所有手数料 2%(法律上の上限 5%) リヤド・マッカ・マディーナ・ジェッダの 4 都市内での非サウジ人による処分
White Land Tax REGA / ZATCA の公表を参照 都市部の未活用地の保有

数値・適用範囲は ZATCA および REGA の公表資料を参照されたい。

日本側の主な税目(居住者・内国法人向け)

税目 概要
所得税 個人の国外不動産所得は日本での申告対象となる
法人税 内国法人の全世界所得は課税対象
相続税・贈与税 海外資産も原則として課税対象
外国税額控除 サウジで課された税額の一部を控除できる場合がある

日本の居住者判定、日サ租税条約の適用範囲は個別事案により異なる。

購入時

サウジ側

不動産取引税(RETT) は物件価格の 5% が課される。個人・法人共通で、住宅用不動産の売買が中心的な課税対象である。所有権移転時(登記時)に課税される仕組みと報じられている。家族間譲渡(一定の血縁範囲)については免除規定がある。

VAT は商業用不動産の売買に 15% が課される。住宅用不動産の売買は原則として VAT の対象外である。

日本側

購入時点で日本側の課税は原則として発生しない。ただし、購入資金の海外送金については、日本の外為法上の届出義務(一定金額以上)に留意する必要がある。

保有・賃貸時

サウジ側

個人による賃貸所得については、サウジ国内での所得税課税は行われていないと報じられている。

一方、法人が不動産賃貸を行う場合の取扱いは異なる。

  • 外国法人:純利益に対して 20% の法人所得税
  • サウジ・GCC 法人:Zakat 2.5%

年間の固定資産税に相当する保有課税は、原則として設けられていないとされる。ただし、都市部の未開発地には White Land Tax が課される。

日本側

サウジ側で個人賃貸所得が非課税であっても、日本の居住者は全世界所得課税の対象となるため、日本国内で不動産所得として申告・課税の対象になる。 これは所得税法上の居住者の全世界所得課税の原則によるものであり、租税条約の適用があっても、日本での申告義務が免除されるわけではない点に注意されたい。

  • 総合課税として、他の所得と合算されて累進税率が適用される
  • 減価償却費、管理費、修繕費、借入利息などの必要経費は控除可能
  • サウジ側で法人税が課された場合は、日本の外国税額控除の対象となる場合がある

具体的な計算方法、必要経費の範囲、青色申告の適用可否については税理士に確認されたい。

売却時

サウジ側

個人のキャピタルゲイン税は課されないと報じられている。一方、以下の課税・手数料が発生しうる。

  • 非サウジ人による処分時の REGA 所有手数料:4 都市内で 2%(法律上の上限 5%)、4 都市外は 0%
  • 法人によるキャピタルゲイン:法人所得税 20%(外国法人)または Zakat 2.5%(サウジ・GCC 法人)
  • 仲介手数料等の取引コスト

日本側

サウジ側でキャピタルゲイン税が非課税であっても、日本の居住者は日本国内で譲渡所得として申告・課税の対象になる。

  • 保有期間により長期・短期の区分が適用される
  • 譲渡益に対して所得税・住民税が課される
  • サウジ側で REGA 手数料・法人税が課された場合の日本側での取り扱い(費用計上か外国税額控除か)は、個別に判断される

日サ租税条約の第 13 条相当の規定(キャピタルゲインの取扱い)については、条約本文の確認と税理士の助言を前提とされたい。

投資家タイプ別の整理

税目 外国人個人 外国法人 サウジ・GCC 法人
購入時 RETT 5% 5% 5%
賃貸収入税(サウジ側) 0% 20% 0%(Zakat 2.5%)
キャピタルゲイン税(サウジ側) 0% 20% 0%(Zakat 2.5%)
処分時 REGA 所有手数料(4 都市内) 2%(上限 5%) 2%(上限 5%) 要確認
年間保有税 0% 0% 0%

日本の居住者・内国法人については、上記に加えて日本側で所得税・法人税・住民税等の課税があることを常に念頭に置く必要がある。

想定される検討フロー

  1. 保有主体の選定:個人名義、日系法人経由、サウジ法人経由の比較
  2. 対象物件の所在地確認:REGA の専用プラットフォームで指定区域に該当するか
  3. 取得コストの試算:RETT、VAT、その他費用
  4. 賃貸収益の税引後試算:サウジ側と日本側の課税を併記
  5. 出口戦略の試算:処分時の REGA 所有手数料、日本側譲渡所得税
  6. 専門家への確認:現地弁護士・税理士、日本の税理士の双方

VAT の取扱い

商業用不動産の売買・賃貸には 15% の VAT が課される。住宅用不動産の売買・賃貸は VAT 非課税と整理されている。商業用途と住宅用途が混在する物件の按分方法、リノベーション費用の VAT 取扱いは、実務では細則の確認が必要である。

制度変更リスク

サウジアラビアの税制は、Vision 2030 の推進に伴い改正が続いていると報じられている。以下の点は今後の変更可能性がある論点として整理される。

  • REGA 所有手数料(4 都市内 2%、法律上の上限 5%)の細則
  • 遊休地税(White Land Tax)の税率変更
  • 個人賃貸所得への課税範囲の拡大
  • 日サ租税条約の改定・追加議定書

制度は予告なく変更されることがあるため、実務にあたっては ZATCA および REGA の最新公表資料の確認、および現地専門家との継続的な情報交換を前提とされたい。

まとめ

サウジアラビアの不動産税制は、個人投資家にとって相対的に低負担な構造とされているが、これはサウジ国内での課税に限った整理である。日本の居住者・法人は、日本の税制上、サウジで発生する所得についても日本国内で申告・課税の対象となる。両国の税制を並列で理解し、必要に応じて外国税額控除等の適用可否を確認することが、実務上の出発点である。個別の判定は、必ず税務・法務の有資格専門家への相談を経て行われたい。