格付けの位置づけ
2026 年 3 月、S&P Global Ratings はサウジアラビアの長期信用格付けを A+ で据え置き、見通しを「安定的(Stable)」と発表したと報じられている。
信用格付けは、国や企業が発行する債券の元利払いを予定通り履行できる能力を評価する指標である。A+ は投資適格級のうち上位に位置し、債務不履行リスクが相対的に低い水準として位置づけられる。参考として、日本の長期信用格付けも同水準(S&P で A+)とされる。ただし、格付けは特定時点の評価であり、将来のリターンや財政の変動を保証するものではない。
見通しが「安定的」とされた点は、向こう 1〜2 年間で格付けが上下いずれにも変更される可能性が相対的に低いことを示唆すると解釈される。
財政改革と Vision 2030 の進展
S&P が格付けを維持した背景には、Vision 2030 のもとで推進されている財政改革と経済多角化の進展があると報じられている。
- 付加価値税(VAT)の導入・引き上げ
- 補助金改革(電気、水、燃料等の公定価格見直し)
- Public Investment Fund(PIF)を通じた戦略的投資
- 非石油部門の GDP への寄与拡大
PIF の運用資産総額は PIF の Annual Report で公表されている。国内外の大規模プロジェクトに投資しており、経済多角化の推進役として位置づけられている。
非石油部門の GDP 成長率は、近年もプラス側の成長を維持していると報じられている。政府債務の対 GDP 比率は先進国平均を下回る水準で維持されていると報じられている。具体数値は GASTAT とサウジ財務省の国民経済計算を参照されたい。
参考比較
| 指標 | サウジアラビア | 参考:日本 |
|---|---|---|
| S&P 信用格付け | A+(安定的) | A+(安定的) |
| 政府債務対 GDP 比 | サウジ財務省公表を参照 | 日本財務省公表を参照 |
| 主要株式市場 | Tadawul (Saudi Exchange) | 東京証券取引所 |
| 経済多角化の柱 | Vision 2030(観光・テック・金融) | 各種成長戦略 |
数値の一次資料確認は継続中である。値は各種公表統計の確認を経て順次差し替える予定である。
リスク要因
格付けが高いことは、投資に伴うすべてのリスクが解消されたことを意味しない。以下の点は、引き続き留意すべきリスク要因として整理される。
原油価格の変動
Vision 2030 のもとで経済多角化は進展しているが、政府歳入に占める石油関連収入の割合は依然として大きいと報じられている。原油価格の大幅な下落は財政や経済成長に影響を及ぼしうる。原油の財政均衡点は Bloomberg Economics 及び IMF の Article IV 協議レポートで年次に推計されている。
地政学リスク
中東地域の政治情勢は流動的であり、近隣諸国との関係、国際的な安全保障環境の変化がサウジ市場に影響しうる。
情報の非対称性
現地の市場情報、規制変更をリアルタイムで把握することは日本の投資家にとって課題とされる。信頼できる情報源(政府公表資料、公認された調査機関の刊行物)の確保が前提となる。
為替リスク
SAR は米ドルにペッグされていると報じられているため、SAR/JPY は実質的に USD/JPY に連動する構造となる。円建てでの評価では為替の変動を別途考慮する必要がある。
日本の投資家にとっての実務論点
サウジアラビア株式市場(Tadawul)は 2026 年 2 月 1 日以降、QFI 制度の撤廃により外国人投資家の直接投資が可能になったと報じられている。日本の投資家にとってのアクセス経路は次のとおり整理される。
- 直接投資:海外証券会社経由での Tadawul 個別銘柄
- 間接投資:日本国内から購入可能な ETF・投資信託。iShares MSCI Saudi Arabia ETF(KSA)等がある
サウジアラビア国内での配当・キャピタルゲイン課税の適用範囲は、CMA および ZATCA の公表資料での確認が必要とされる。日本の居住者・内国法人は全世界所得課税の対象となるため、サウジで発生する配当・キャピタルゲインについても日本国内で申告・課税の対象になる。 日サ租税条約の適用範囲、外国税額控除の可否は税理士等の有資格専門家に確認されたい。
不動産セクターでは、2026 年 1 月 22 日施行の非サウジ人による不動産所有法により、外国人による直接所有の道が開かれたと報じられている。指定される地理ゾーンに関しては、公表を待つ必要がある。
まとめ
S&P Global によるサウジアラビアの信用格付け A+(見通し安定的)の維持は、Vision 2030 のもとでの財政改革と経済多角化の進展に対する国際的な評価の反映として報じられている。日本の投資家がサウジ市場を検討するにあたっては、格付けは前提条件のひとつにすぎず、原油価格、地政学、情報アクセス、為替、日本側の課税など、複数の要因を並列で評価することが求められる。過去のデータや現在の格付けは、将来の投資リターンを保証するものではない。