制度変更の概要

サウジアラビアは 2026 年、投資関連制度を刷新したと発表された。従来の外国投資法(Foreign Investment Law)に代わり、新たな投資法(Investment Law)が施行され、外国投資家専用のライセンス制度が廃止されたとされる。

代替される仕組みは、投資省(MISA)への「投資登録証明書(IRC)」取得を軸とする統一的な登録制度である。この改正により、外国投資家と国内投資家の法的区別が原則として撤廃され、同等の条件下では同等の扱いを受けるという「内国民待遇」の原則が明文化されたと報じられている。

この改革は Vision 2030 と直結する政策であり、NEOM 等のギガプロジェクト、2034 年 FIFA ワールドカップの開催準備、リヤドの地域統括拠点(RHQ)プログラムなど、外国資本の受入拡大を伴う一連の取り組みの一部として位置づけられている。

なお、従来設定されていた MISA サービス手数料は、報道時点で運用停止中とされている。恒久的な廃止ではなく将来的に再導入される可能性が指摘されている。手数料の水準・運用状況は MISA の最新公表を確認されたい。

CMA による資本市場の並行開放

2026 年 2 月 1 日には、資本市場庁(CMA)が外国人証券投資規則を改正し、「適格外国機関投資家(QFI)」制度を撤廃した。詳細は saudi-stock-market-opening-2026 を参照されたい。1 銘柄あたりの外国人合計保有 49%、単一投資家 10% の上限は撤廃後も維持されている。

法人設立の 7 ステップ

サウジアラビアでの法人設立プロセスは高度にデジタル化されている一方、複数の政府機関との連携が必要とされる。以下は各種公表資料に基づく標準的なフローである。

ステップ 手続き 主管機関
1 投資登録証明書(IRC)の取得 投資省(MISA)
2 商号予約・商業登記(CR)発行 サウジビジネスセンター(SBC)
3 定款(AoA)の電子公証 法務省
4 国定住所(SPL)の連携 サウジポスト
5 労働許可・社会保険の有効化(Qiwa / GOSI) 人的資源省 / GOSI
6 ZATCA 登録・電子インボイス(Fatoora Phase 2)連携 歳入庁(ZATCA)
7 自治体承認(Balady)・オフィス賃貸登録(Ejar) 自治体

各ステップの標準所要期間、必要書類の詳細は、事業内容と申請者の属性により異なる。公式の申請ポータルおよび現地の実務家の助言を前提とされたい。

実務コストの目安

以下は公表資料に基づく参考値である。金額は事業規模・業種・オフィス所在地により変動する。

事業規模 目安
小規模企業 SAR 50,000〜120,000
中規模企業 SAR 150,000〜350,000

MISA サービス手数料の運用停止により、政府手数料の実質負担は過去と比べて低下していると報じられている。ただし、以下のコストは別途必要となる。

  • 定款の公証・翻訳費用
  • 会計システムの Fatoora 対応
  • ニタカート(サウジ人雇用割当)のコンプライアンス費用
  • 物理オフィスの賃貸料

日本企業にとっての実務論点

書類準備

IRC 取得時に、アポスティーユ認証済みの日本の登記簿謄本・定款の翻訳提出が求められる場合が多いと報じられている。書類準備には数週間を要する。

オフィス要件

ステップ 7 の Balady 承認では、主要都市で物理オフィスの確保が前提となる場合が多い。バーチャルオフィスでの代替可否は、業種・自治体により異なるため事前確認が必要である。

法人形態

LLC(有限責任会社)が最も一般的な形態とされ、外資 100% 出資が大半の業種で可能と報じられている。

租税条約

日本はサウジアラビアと租税条約を締結している。配当・利子・ロイヤルティに置く源泉税率の条約による軽減適用の可否は、支払相手側の居住地証明・受益者の属性など事案により異なる。詳細は条約本文と税理士の判断を前提とされたい。

ニタカート

サウジ人雇用義務の適用は、事業の人件費構造に影響する。事前確認が推奨される。

不動産所有法との関係

法人設立の規制緩和と並行して、2026 年 1 月 22 日に施行された「非サウジ人不動産所有法」が不動産市場に大きな影響を与えている。詳細は saudi-arabia-foreign-property-ownership-law-2026 を参照されたい。

外国投資家がサウジで不動産開発プロジェクトに直接参画する場合、以下の二段構えの手続きが標準的なフローとされる。

  1. 新投資法に基づく IRC を取得して LLC(等の法人)を設立
  2. 法人名義で不動産を購入(REGA での所有権登録)

「外国株主を持つサウジ法人(非上場)」は新法上「非サウジ人」に該当しないと報じられており、指定区域内外での取得範囲がより広くなる可能性がある。

税制の概観

サウジアラビアの税制は二層構造とされる。

  • Zakat(2.5%):GCC 国籍の株主が保有する部分に適用
  • 法人所得税(20%):非 GCC 外国株主の持分に対して適用

そのほか、以下の税目が事業内容により適用される。

  • 付加価値税(VAT)
  • 不動産取引税(RETT)
  • 源泉徴収税(配当、利子、ロイヤルティ、サービスフィー)
  • Tadawul 上場株式の売却益:原則として法人所得税の対象外と報じられている

各税目の標準税率・源泉徴収の適用範囲は ZATCA の公表資料を確認されたい。

数値と適用範囲は ZATCA および CMA の公表資料の確認を要する。

リスクと留意点

制度の過渡期

MISA サービス手数料の停止は暫定的措置であり、投資環境が安定した段階で再導入される可能性がある。制度は 2026 年に施行されたばかりで、運用の解釈は継続的に更新される段階にある。不動産関連の施行規則は 2026 年 6 月 23 日に閣議で承認され、同年 7 月 3 日に公布された。

ニタカート違反リスク

サウジ人雇用義務の未達は、ビザ発給・更新の制約につながりうる。人事計画の設計段階からの検討が必要とされる。

不動産の指定区域

外国人による直接所有が可能な地理的区域は、REGA の専用プラットフォームで公開されている。すべてのエリアで即座に取得可能というわけではない。

メッカ・メディナの制限

両聖都では外国人所有に厳格な制限が残ると報じられている。

銘柄保有上限

外国投資家(戦略投資家を除く)の Tadawul 上場銘柄への保有上限は、単一 10%、全外国投資家合計 49% と報じられている。

サウジ側と日本側の課税

日本の居住者・内国法人は全世界所得課税の対象となるため、サウジ現地法人の所得配当、事業所得、キャピタルゲインについても、日本国内で申告・課税の対象になる。 日本側の外国税額控除の適用、日サ租税条約の適用範囲は、事案により異なる。個別事案は税理士等の有資格専門家に必ず確認されたい。

恒久的施設(PE)認定を伴うスキームでは、日本での申告義務・課税範囲が大きく変わる可能性がある。

まとめ

2026 年の新投資法施行と CMA による資本市場の並行開放は、日本の投資家・法人にとって、サウジ市場へのアクセス経路を制度上拡大する変更として位置づけられる。ただし、施行細則の運用、税務上の取り扱い、実務コスト、日本側の課税など、多岐にわたる論点を並列で確認する必要がある。本記事は情報整理を目的とし、特定商品・特定案件への投資推奨を行うものではない。