はじめに
2026 年 1 月、サウジアラビアで非サウジ人による不動産所有法が施行された。これに先立ち、投資家が検討すべき制度・実務の論点を、公表情報の範囲で整理する。本記事は情報整理を目的とし、特定商品・特定案件への投資推奨を行うものではない。
制度変更の背景
Vision 2030 のもとで、非石油部門の GDP 寄与拡大と外国直接投資(FDI)の受入拡大が国家目標として掲げられていると報じられている。不動産市場の外国人向け解禁は、この方針と整合的な制度変更として位置づけられる。
NEOM 等の大規模プロジェクトによる不動産需要要因は、複数の公表資料で言及されている(詳細は saudi-development-area-map-2026 を参照)。ただし、大規模プロジェクトの規模・スコープは公表資料の更新に伴い変動しうる(saudi-pivot-neom-to-ai-wall-street-investor-implications 参照)。
外国人不動産所有法の概観
以下は制度の要点である。詳細は saudi-arabia-foreign-property-ownership-law-2026 を参照されたい。
- 施行日:2026 年 1 月 22 日
- 対象:非サウジ人の個人、外国法人、外国人株主を含むサウジ法人、上場企業・投資ファンド
- 取得可能地域:閣議決定で指定される「地理的区域」内
- 特例:サウジに合法的に居住する外国人(イカマ保有者)は、指定区域外でも自己居住用の住宅 1 戸の所有が認められると報じられている
- 制限地域:メッカ・メディナは特別扱い(外国人個人はイスラム教徒に限定)
- 取引コスト:RETT 5% に加え、REGA 所有手数料(4 都市内で 2%、法律上の上限 5%、4 都市外は 0%)。VAT とは別建て。取得検討時には合算して試算する
- 登記:不動産登記が権利の有効要件
想定される取得形態
サウジ不動産へのアクセス経路として、以下の複数の形態が公表資料で言及されている。それぞれ資金要件、流動性、実務負担が異なる。
完成物件の直接取得
- 資金要件が大きい
- 竣工済みのため即時利用が可能
プレビルド物件(竣工前物件)
- 詳細は saudi-prebuild-property-guide を参照
- 契約から竣工までの期間、複数のリスクが存在する
トークン化不動産
- 詳細は tokenized-real-estate-guide を参照
- 小口化された金融商品として少額から参加できる仕組みと報じられているが、法制度・税務の枠組みは各国で発展途上
上場 REIT・ファンド経由
- Saudi Exchange 上場 REIT を経由した間接投資
- 個別物件の管理負担がない反面、対象資産は運用者の判断に依存する
サウジ国内法人(LLC)経由
- 事前に MISA 投資登録が必要な場合がある
- 法人形態による課税上の取り扱いが異なる
Premium Residency(プレミアム・レジデンシー)
サウジ側の Premium Residency 制度は、一定の要件(不動産保有・事業投資・専門職スキル等)を満たす外国人に対して、長期居住権を付与する仕組みと報じられている。制度要件の詳細は Premium Residency Center の公表資料の確認を要する。詳細は本サイトの 移住・ビザ カテゴリ で扱う。
「一定額以上の不動産投資で永住権取得」との言及が各種資料に見られるが、要件・手続きは政府公表資料の確認を前提とされたい。
準備すべき論点
情報収集
- 公表資料(REGA、MISA、CMA、ZATCA、GASTAT)の直接参照
- 政府省庁の英語版ページ
- 公認された調査機関の刊行物
資金計画
- 投資通貨(SAR、米ドル、円)
- SAR は米ドルにペッグと報じられている
- 送金経路、必要書類(KYC / AML)
- 予備費(取引コストと竣工遅延に備えたバッファ)
制度・税務
- 対象物件が指定地理ゾーンに含まれるか
- 保有主体の選定(個人、法人、SPV 等)
- サウジ側の課税(RETT、REGA 所有手数料、法人税等)
- 日本側の課税
現地専門家
- 弁護士(不動産取引、法人設立)
- 税理士(サウジ・日本両側)
- 会計士(法人経由の場合の記帳・申告)
- 宅地建物取引の実務家(物件のデューデリジェンス)
投資形態
自己の資金規模、リスク許容度、実務負担の範囲に応じた形態の選定。上記の複数形態は、目的・条件により向き不向きが異なる。
サウジ側と日本側の課税
日本の居住者・内国法人は全世界所得課税の対象となるため、サウジで発生する不動産所得、賃料、キャピタルゲインについても日本国内で申告・課税の対象になる。 サウジ側で個人賃貸所得が非課税と報じられていても、日本側では申告義務が発生する。
- 日サ租税条約の適用範囲は事案により異なる
- 外国税額控除の可否は個別に判定される
- 恒久的施設(PE)の認定リスクは、事業所得を伴うスキームで検討が必要
税理士等の有資格専門家に必ず確認されたい。
リスク要因
制度の運用リスク
新法の施行規則は 2026 年 6 月 23 日に閣議で承認され、同年 7 月 3 日に公布された。指定地理的区域も併せて承認され、REGA の専用プラットフォームで公開されている。制度が新しいため、運用の詳細や解釈は今後変更される可能性がある。
為替リスク
SAR/USD ペッグ制度下でも、円建てでは USD/JPY の変動が投資評価に影響する。
流動性リスク
高額物件・特殊物件は、二次市場での売却に時間を要する場合がある。
情報の非対称性
現地の英語情報が限定的な場合がある。信頼できる情報源の確保が実務上の前提である。
地政学リスク
中東の政治情勢の変化が、市場・企業業績に影響しうる。
まとめ
2026 年 1 月のサウジアラビア不動産市場開放は、日本の投資家にとって新たな選択肢を提示する制度変更として報じられている。ただし、制度は発展途上であり、公表資料の更新に応じて論点は変化する。本記事は情報整理を目的とし、特定物件・特定案件への投資推奨を行うものではない。実際の判断は、公表資料の最新版と、有資格の法務・税務・不動産実務家への相談を経て行われることが望ましい。過去のデータや現時点の想定は、将来のリターンを保証しない。